骨が脳に話しかける:階段の登り降りと、オステオカルシンが教えてくれること

朝靄の石段の下に立つ後ろ姿。これから登り始める階段の登り降りのイメージ
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は、身体を支えるための部品だと思っていました。

カルシウムの貯金箱で、レントゲンに白く写るだけの、
硬くて静かなもの

ところが、骨はホルモンを出しているらしい。

しかもそのホルモンは血液脳関門を越えて
記憶をつかさどる場所に届いている —
そんな研究があることを知りました。

が、に話しかけている。

そう聞いたとき、11年続けてきた階段の登り降りが、
少しだけ違う意味を持って見えてきました。

ただ、先に正直に書いておきます。
この研究は、いま揺れています

「骨はホルモンを出す臓器だ」という説そのものに、
疑問符をつける論文が2020年に出ているのです。

それでも、この話を書いておきたいと思いました。

揺らぎも含めて書いたほうが、
かえって「続けることの意味」に近づく気がしたからです。


骨はホルモンを出していて、それが脳に届いている —
2013年以降、そう報告されてきました。

ただしこの説には2020年に反証が出て、いまも決着していません。

それでも1つだけ揺れないのは、
骨に力をかけられるのは、自分で動いたときだけだということです。

目次

骨は、黙って支えているだけではなかった

骨がオステオカルシンを分泌する仕組みを表す図解

の役割は、身体を支えること。
そしてカルシウムを蓄えておくこと。

学校で習ったのは、たしかそこまででした。

ところが2000年代に入ってから、骨の見え方が変わってきます。

骨をつくる細胞 — 骨芽細胞が、
血液に乗って全身をめぐるタンパク質を出している。

それがオステオカルシンです。

オステオカルシン自体は、1970年代から知られていました。
ただ長いあいだ、それは「骨の材料のひとつ」だと思われていました。
硬い建物の、コンクリートに混ぜる砂のようなもの。
そういう位置づけだったのです。

見方が変わったのは、コロンビア大学の Gerard Karsenty の研究室が、
骨は血糖を調節するホルモンを出している」と報告してからでした。

骨は、支えられているのではなく、
身体に指示を出している側かもしれない
そういう話になってきたわけです。

オステオカルシンには、大きく分けて2つの形があります。

  • カルボキシル化オステオカルシン(cOC):
    • 骨に留まり、骨そのものの質に関わる形
  • 低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC):
    • 骨から血中へ出て、ホルモンとして働くと考えられている形

この記事でこれから出てくる「脳に届く」という話は、
主に後者、血中を旅していく側の話です。

なお、オステオカルシンの代謝・血糖まわりの働きについては、
オステオカルシンで40代の体質改善:骨からやせる習慣 にまとめてあります。

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この記事は、そこでは触れなかった「脳の側」の話です。

骨からのホルモンは、脳のどこに届くのか

オステオカルシンが届く脳の3領域(海馬CA3・腹側被蓋野・縫線核)を示す図解

血液の中に何かが流れていても、
脳にはそう簡単に入れません。

血液脳関門という、厳しい関所があるからです。

ところがオステオカルシンは、そこを越えるとされています。
そして越えた先で、特定の場所に留まる

海馬 CA3 という、記憶の置き場所

2013年に Cell 誌に載った Franck Oury らの研究では、
オステオカルシンが結合する脳の場所が示されました。

  • 海馬の CA3 領域:記憶の形成に深く関わる場所
  • 中脳の腹側被蓋野:やる気や報酬に関わるドーパミンの出どころ
  • 脳幹の縫線核:セロトニンをつくり、気分や睡眠を支える場所

記憶、
やる気、
気分。

並べてみると、どれも「40代になって気になり始めるもの」ばかりです。

運動が脳に届く経路は、これひとつではありません。
BDNF という別の道筋については 脳も若返る!ダイエットと認知症予防を同時に に書きました。

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神経伝達物質のバランスを変える

同じ研究によれば、オステオカルシンはこれらの場所で、
セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンといったモノアミン系の神経伝達物質の合成を増やし
逆に GABA をつくる酵素の働きを下げていました。

ざっくり言えば、
アクセル側を増やして、ブレーキ側を減らす方向です。

そしてオステオカルシンを持たないマウスは、空間学習と記憶に明らかな障害を示し、不安やうつに似た行動が増えたと報告されています。

ここで一度、立ち止まっておきます。

これはマウスの話です。
人間でそのまま同じことが起きる、という証明ではありません。

出典:Maternal and Offspring Pools of Osteocalcin Influence Brain Development and Functions

そして、加齢とともに静かに減っていく

オステオカルシンが加齢とともに減少することを表す図解

この話が他人事でなくなるのは、ここからです。

2016年に Cell Metabolism 誌に載った研究では、
オステオカルシンが加齢とともに減っていくことが示されました。

マウスでも、サルでも、人間でも。
そして男女どちらでも、です。

同じ研究では、生後15ヶ月の高齢マウスにオステオカルシンを与えると、
運動能力が生後3ヶ月の若いマウスの水準まで戻った、とも報告されています。
筋肉が糖と脂肪を取り込んで使う効率が、上がるからだと説明されていました。

減っていくものが、補うと戻る。
そう聞くと、注射やサプリを探したくなります。
けれど、人間でそれをやった話ではありません

では、人間ではどこまで分かっているのか。

2016年に Age and Ageing 誌へ報告された研究では、
健康な高齢者を対象に、血中オステオカルシンと認知機能の関係が調べられました。

結果は、高齢女性では、オステオカルシンが高いほど実行機能や全般的な認知機能のスコアが良かっというもの。
ただし同じ関係は、高齢男性でも若年者でも見られませんでした。

そして何より、これは相関です。
「オステオカルシンが高いから頭が働く」のか、
「よく動いている人がどちらも高い」のかは、この研究では分かりません。

出典:Osteocalcin signaling in myofibers is necessary and sufficient for optimum adaptation to exercise
Association between osteocalcin and cognitive performance in healthy older adults

なぜ「階段の登り降り」なのか

階段の登り降りによる荷重刺激が骨に届く流れを表す図解

骨には、少し不器用なところがあります。

は、力がかかった場所にしか応えません

栄養を摂っても、日光を浴びても、それだけでは足りない。

その骨に、実際に体重が乗って、
たわむくらいの刺激が届いて、はじめて骨は反応する。

階段の登り降りが、ここに効いてきます。

登るときは、
身体を持ち上げる力が脚の骨に伝わります。

そして降りるとき。
筋肉は “伸びながら踏ん張っている” 状態になり、
平地を歩くときよりも大きな衝撃が骨に届きます。

私が階段の下りをおろそかにしたくないのは、これが理由のひとつです。

下りは、ただの帰り道ではありません。

骨そのものへの効き方は 骨を強く!骨粗鬆症予防と健康寿命 で詳しく書いています。

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では、運動でオステオカルシンは本当に増えるのか

22件のランダム化比較試験をまとめたメタ分析では、
運動介入のあとで血中の低カルボキシル化オステオカルシンがわずかに上昇したと報告されています
(平均差 0.15 ng/mL、95%信頼区間 0.05〜0.25)。

「上がった」と言えます。
ただし、正直に書きます。

変化量は、決して大きくありません。
階段を登ったらホルモンがどっと湧く、という話ではないのです。

出典:The effect of exercise training on osteocalcin, adipocytokines, and insulin resistance: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials

正直に書いておきたい、この物語の揺らぎ

仮説から再検証へ向かう科学の検証サイクルを表す図解

ここまで書いてきて、隠しておくのが気持ち悪い話があります。

2020年、PLOS Genetics 誌に2本の論文が出ました。
どちらも、これまでの「骨ホルモン説」に真正面から疑問を投げるものでした。

1本は、別の研究チームが
オステオカルシンを持たないマウスを新たに作り直した研究です。

骨の強さ、
血糖値、
雄の生殖能力 —
調べた3つのどれも、普通のマウスと差がありませんでした。

これは、オステオカルシンを欠いたラットの結果とは一致するものの、
最初に報告されたマウスの結果とは食い違います。

研究チームは理由が分からないまま、
自分たちのマウスを公共の保管機関へ寄託しました。
他の研究室が自由に検証できるように、です。

もう1本は、オステオカルシンは骨のアパタイト結晶を整えるのに必要だが、糖代謝やテストステロン合成、筋肉量には関わっていない、と報告しました。

つまりいま、「骨が脳に話しかける」という物語は、
宿題を抱えた状態にあります。

出典:An osteocalcin-deficient mouse strain without endocrine abnormalities
Osteocalcin promotes bone mineralization but is not a hormone

この話を知ったとき、私は正直少しがっかりしました。
きれいな物語が崩れる音がしたからです。

けれど、しばらく考えて、
見方が変わりました。

これは科学が壊れた話ではありません。

仮説が出て、
別の人が確かめて、
合わなくて、
材料を差し出して、
また誰かが調べにいく。

科学がきちんと働いている姿そのものです。

結論が出るまでには、まだ時間がかかるでしょう。
10年かかるかもしれない。

それでも、私が階段を登り続ける理由

私が階段の登り降りを始めたのは、2015年の2月でした。

エレベーターを(基本的には)使わないと決めて、11年が過ぎています。
10年以上続けてきたそれを朝に移したのは、2024年の秋からです。

登り鼻で呼吸を整え、
下り長く息を吐く

そんな細かい工夫を足しながら、静かに続けてきました。

朝に移してからの変化は 朝の階段が脳を目覚めさせる?認知症予防と睡眠改善 に書いています。

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正直に言えば、
オステオカルシンのために登ったことは1度もありません。

この名前を知ったのは、ずっと後になってからです。

それでも、この研究の揺らぎを追いかけながら、
ひとつだけ、揺れていないことに気づきました。

骨に力をかけられるのは、自分で動いたときだけだということです。

オステオカルシンが本当にホルモンなのか、
それが本当に海馬まで届いているのか。

その答えは、私には出せません。

けれど、骨が力を受け取る方法は、
今のところ他にありません。

飲んで代われるものではないのです。
サプリの棚には、骨に体重を乗せてくれる商品は並んでいません。

私は20年分の健診データを手元に持っています。

階段と食事の見直しで、大きく動いた数値もありました。
一方で、何をしてもまったく動かなかった数値もあります。

だから「これを続ければ、こうなります」とは書けません。
身体は、そこまで素直ではないからです。

ただ、続けることでしか手に入らない刺激がある。

それだけは、11年かけて分かりました。


薬で体重が落とせる時代に、それでも自分の脚で骨に力をかける意味は
痩せる薬の時代に、それでも階段を登る理由 に書いています。

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まとめ:結論を待たなくても、脚は動かせる

骨が脳に話しかけているのかどうか

その答えは、まだ出ていません。

10年後、この記事を読み返したとき、
「あの説は間違いだった」と分かっているかもしれません。
あるいは逆に、教科書に載っているかもしれない。

どちらに転んでも、困らない気がしています。

私は結論のために登っているのではなく、
登れる脚を残しておくために登っているからです。

科学は、いずれ答えを出します。
けれどその答えを待っているあいだにも、
身体は静かに年を取っていきます。

今日の1段は、どちらに転んでも無駄になりません

その確かさだけを持って、明日もまた登ります


日々の小さな記録は、noteのマガジンにも静かに綴っています。

ひのとみのいしころ|静かに熱い40代の記録

おことわり

本記事は情報提供を目的としており、特定の効果・効能を保証するものではありません。

健康に関するご判断は、必ず医師・専門家にご相談ください。

本記事で使用した画像はNapkin AIを利用しています。

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