“なんとなく” 始めた階段が、10年後の自分を変えていた
最初は、ただの思いつきでした。
健康診断で “メタボ予備軍” と書かれた紙を見て、
エレベーターの前で立ち止まった自分が、なんだか他人のように思えたのを覚えています。
その日から、身近な階段を登り降りするようになりました。
運動が苦手でも、これならできる。
そんな軽い気持ちで始めた階段が、いつの間にか10年の習慣になっていました。
続けるうちに、数字で見える変化（体重・体調）だけでなく、
“心の静けさ”や“集中力”といった、目に見えない変化が現れ始めます。
階段の登り降り朝活が、考えを整理し、感情を整える時間に変わっていく ─
気づけば、「運動」ではなく「自分を整える儀式」になっていました。
今では、それを “続けよう” と意識することすらありません。
身体が自然に動く。気分が整う。
その裏には、どうやら人の身体に備わった“暗黙のルール” があるようです。
本記事では、10年間の階段登り降り習慣から見えてきた、
身体と心の静かな関係を、実体験と科学の両面からたどっていきます。
メタボ予備軍の自分にできることは “階段” しかなかった
あの頃の自分は、完全に「数字に負けていた」。
体重計の針は、ここ数年見たことのない位置を指し、
健康診断の結果には、赤い文字で “要再検査” と並んでいた。
「仕事のストレスが原因だ」と言い訳をしながらも、
心のどこかで、そろそろ何かを変えなければと思っていました。
ただ、ジムに通う気力もなければ、ランニングを始める勇気もありませんでした。
運動が得意ではない自分には、どれもハードルが高すぎたのです。
そんなとき、何気なくいつもの場所にある “階段” が目に入りました。
6階まで、一番上まで ─ たったそれだけ。
「これなら、自分にもできるかもしれない」
ほんの小さな思いつきが、後に10年続く行動の原点になりました。
最初の数日は、息が切れて、太ももが張って、
正直なところ「これは無理かも」と思いました。
けれど、1週間が過ぎたころから、少しずつ変化を感じ始めたのです。
昼休みに階段を登り降りすると、身体が温まり、頭がクリアになる。
昼にエレベーターを使うより、むしろ気分がいい。
それに気づいた瞬間、「続ける理由」が少しだけできました。
大げさな目標も、完璧な計画もなかったけれど、
ただ、“昨日と同じように階段を登り降りする” という行動を続けるだけで、
少しずつ、心と身体が軽くなっていったのです。
あのとき感じたのは、「大きな変化」ではなく、「小さな納得」でした。
“自分でも動ける” という感覚 ─ それが、すべての始まりでした。
身体的変化：数字で見える変化が、続ける力になった
最初の3か月：身体が応えてくれた瞬間
階段を登り降りし始めて3か月。
あの頃の私は、まだ「続けること」に自信が持てず、
ただ習慣のように階段を登り降りしていました。
けれど、ある朝ふと気づいたのです。
息切れの回復が早くなり、足の動きが軽くなっている。
そして、体重計の数字が2キロ減っていました。
たったそれだけの変化でしたが、その数字は確かな “手応え” でした。
身体が反応してくれると、心も少し変わります。
「やれば変わる」という感覚が、思考より先に身体から伝わってくる。
それが、私にとっての最初の “ご褒美” でした。
半年後の変化：データが証明する身体の反応
半年を過ぎた頃、健康診断の数値が目に見えて変わり始めました。
中性脂肪は減り、血糖値も安定。肝機能の数値まで下がっていました。
特別な食事制限もしていないのに、
階段という日常の選択だけで、身体がここまで整うのかと驚きました。
それまで「努力」と思っていた行為が、
いつの間にか「日常の動作」に変わっていく。
その自然さこそが、継続の理由になっていきました。
階段運動の科学：“生活の中の運動” がもつ力
科学的に見ても、階段の登り降りは侮れません。
1日5〜10分でも中強度の有酸素運動として扱われ、
特に大腿四頭筋や臀部など、基礎代謝を支える筋肉を効率的に刺激します。
この運動が繰り返されることで、
血糖コントロール、心肺機能、姿勢の安定性などが総合的に改善します。
研究でも、1日数分の階段の登り降りを継続した人は、
血中脂質の改善やインスリン感受性の向上が見られるという結果が出ています。
つまり、階段は “最もシンプルで、持続可能なトレーニング” なのです。
出典：Stair climbing/descending exercise for a short time decreases blood glucose levels after a meal in people with type 2 diabetes
One minute of stair climbing and descending reduces postprandial insulin and glucose with 3-min improving insulin resistance following a mixed meal in young adults: A Randomized Controlled Crossover Trial
The Chronic Effect of Stair Climbing–Descending Exercises after Meals on Glycemic Control in Individuals with Type 2 Diabetes: A Randomized Controlled Trial
Effects of acute and chronic stair-climbing exercise on metabolic health: A systematic review
続ける理由が “結果” から “感覚” へと変わる
身体が変わると、自然と心の動きも変わっていきます。
最初は数字が励みでした。
しかし半年を過ぎる頃には、
身体を動かすことそのものが気持ちよく感じられるようになっていました。
身体が整い、姿勢が安定し、呼吸が深くなる。
階段の登り降り朝活の時間が “目を覚ます儀式” のように感じられる。
その心地よさが、“続けよう” という意識よりも強くなっていったのです。
振り返れば、この頃が “身体フェーズ” のピークでした。
身体の変化が心の余白を生み、
やがてそれが、次の「精神的変化」へとつながっていくのです。
精神的変化：体が落ち着いた頃、心が静かに変わり始めた
減量の先にあった “心の静けさ”
体重が安定し、数字の変化が少なくなってきた頃、
自分の内側で、別の変化が起きていることに気づきました。
朝、階段を登り降りする時間が “心を整える時間” に変わっていたのです。
足音と呼吸のリズムが一致すると、頭の中のノイズが消えていく。
考えごとをしていたつもりが、いつの間にか何も考えていない。
まるで “動く瞑想” のような感覚でした。
けれどその静かな変化は、
仕事中の集中力や感情の安定にも確かに影響していました。
動くことで思考が整う：動的瞑想という感覚
この頃から、階段登り降りの時間は私にとって “思考の整理” になりました。
日々の課題や不安を抱えていても、
一段一段を踏みしめているうちに、
考えが自然と整理され、結論が浮かんでくることが増えたのです。
心理学では、有酸素運動が前頭前野の過活動を抑え、創造性や判断力を高めることが分かっています。
また、脳内ではセロトニンやBDNF（脳由来神経栄養因子）が分泌され、ストレス耐性や集中力の向上を助けるとも言われます。
つまり、階段を登り降りするという単純な行為は、
脳の“静けさ”をつくる身体的スイッチでもあるのです。
出典：Be smart, exercise your heart: exercise effects on brain and cognition
Neurocognitive mechanisms underlying the experience of flow
Exercise: a behavioral intervention to enhance brain health and plasticity
A meta-analytic review of the effects of exercise on brain-derived neurotrophic factor
感情の波が小さくなっていく
階段の登り降りを続けるうちに、感情の起伏が穏やかになっていきました。
以前なら、仕事のミスや人間関係で気持ちが乱れるようなことがあっても、
階段を登り降りする時間を持つことで、
不思議と気分がリセットされるようになったのです。
身体が整うことで、感情の “回復力” が上がる。
それは意志の力ではなく、
呼吸やリズムが整うことによって自然に起こる反応でした。
静かな集中を通して、心が微調整されていくような感覚です。
“やる気” ではなく “流れ” で動く日々へ
気づけば、階段を登り降りすることに “やる気” は要らなくなっていました。
朝のルーティンの一部として、
身体が自然に動き、心がそれに追いついていく。
続けようと意識するのではなく、
ただ “流れの中に身を置く” だけで動けるようになる。
この頃から私は、「努力ではなく流れの中で生きている」
そんな感覚を覚えるようになっていきました。
それはまるで、
無理をしないのに結果が出る、心と身体のバランス点を見つけたような感覚でした。
そして、その “自然な流れ” こそが、次の章で語る ─
“無意識のルール” へとつながっていくのです。
“暗黙のルール” を感じた瞬間：無理をしないのに、自然と動き続けている
気づけば、“続けよう” と思わなくなっていた
10年も続けていると、「やめよう」と思ったことは一度もありません。
というより、“続けている” という感覚すら、もう薄れています。
朝になれば自然に身体が動き、階段の方に足が向いている。
一段目を踏み出す瞬間には、
意識や意志といったものはほとんどありません。
まるで、身体が先に未来を知っていて、
心がそれに追いついていくような感覚です。
いつの間にか、「意思で動く」から「自然に動く」へ。
その境界が消えていったのです。
行動の “自動化” がもたらす穏やかさ
心理学では、習慣化が進むと脳の前頭前野（意志決定を司る部分）の活動が減り、
基底核と呼ばれる “自動行動の中枢” が働くと言われています。
つまり、人は行動を繰り返すうちに、
その判断を “脳の奥” に委ねるようになるのです。
これは怠けではなく、効率化された安定。
続けるためにエネルギーを使わない状態です。
私も、階段を登り降りすることに気合いを入れることはもうありません。
ただ淡々と、しかし確実に続いていく。
それが、心にも穏やかさをもたらしてくれています。
出典：Habits, Rituals, and the Evaluative Brain
A specific role for posterior dorsolateral striatum in human habit learning
“無意識” の中にある身体の知恵
長く続けるうちに、もうひとつ気づいたことがあります。
それは、身体には “自分を整えるための知恵” が備わっているということ。
階段を登り降りすると、
自然と呼吸が深くなり、目線が上がり、背筋が伸びる。
それだけで、心の状態が変わっていく。
頭で考える前に、身体が心を調整してくれている。
この “身体の暗黙のルール” に従うと、
努力や意志よりもずっと穏やかに、
人は良い方向へ変わっていけるのかもしれません。
意思を超えた継続の先にあるもの
今の私は、「続けるために努力する」という感覚がありません。
続けることが、もう “自分そのもの” になっている。
まるで、呼吸のように。
この状態に至るまでに必要だったのは、
特別な根性ではなく、“無理をしない一貫性” でした。
階段を登り降りするという行動が、自分のリズムの中に吸収されるまで、
少しずつ時間をかけて馴染ませていった。
その先にあったのは、意志を超えた穏やかな継続。
人の身体は、習慣を通して「最も自然な自分」に戻る力を持っているのだと、
今ではそう思えるのです。
まとめ：習慣が “意思” を超えるとき、人生が静かに変わる
続けることが、特別ではなくなる瞬間
10年前、階段を使い始めたときは、
「いつまで続くか」など考えたこともありませんでした。
けれど、気づけば10年。
あの頃よりも身体は軽く、心は穏やかで、
日々のリズムが静かに整っています。
続けることが「努力」ではなく、
「自分の自然な状態」に変わる。
その瞬間こそが、習慣が “意思” を超えた証なのだと思います。
変化はいつも静かに始まっている
振り返ってみると、大きな変化はいつも “静か” でした。
派手な目標も、劇的な成果もいらない。
ほんの少しの選択 ─ エレベーターではなく階段を選んだあの日 ─
そこからすべてが始まっていました。
変化は一気に起きるのではなく、
気づかないうちに、積み重ねの中で形になる。
その “静かな変化” を信じられるかどうかが、
継続の力を左右するのだと、今は思います。
“今日の一段” から、人生は動き出す
10年を経て感じるのは、「一段の小ささが、人生の大きさを変える」ということ。
大切なのは、量でも速度でもなく、一段を踏み出す “意志”。
その小さな動きが、時間とともに無意識の味方になっていきます。
階段を登り降りすることは、人生を生きていくことに似ています。
一歩ごとに呼吸を合わせ、
時に立ち止まりながら、それでも前に進む。
もし、今のあなたが何かを変えたいと思っているなら ─
まずは今日、エレベーターの前で立ち止まってみてください。
そして、静かに一段を上がってみてください。
その瞬間から、あなたの “暗黙のルール” も動き始めるはずです。
静かに積み重なる日々の中で
10年という時間は、長いようでいて、振り返ればほんの一瞬でした。
続けるうちに、結果よりも過程の方に目が向くようになり、
“何を達成するか” よりも、“どんな自分でいたいか” を考えるようになりました。
階段を登り降りすることは、未来の自分に声をかけるような行為です。
続けることは、決して派手ではありません。
でも、気づけば周りの景色が変わっている。
身体も、心も、思考の質も、少しずつ澄んでいく。
もし、今のあなたが焦りの中にいるのなら、
どうか “結果” より “流れ” を信じてみてください。
続けることの中には、目に見えないリズムと智慧があり、
それはきっと、あなたの中にもすでに息づいているはずです。
おことわり
本記事は筆者自身の体験と、一般的に知られている科学的知見をもとに構成しています。
医療行為や特定の健康法を推奨するものではありません。
体調や持病のある方は、医師や専門家の指導のもとで実践してください。
ここで語る内容は一例であり、すべての方に同じ効果を保証するものではありません。
本記事で使用した画像はNapkin AIを利用しています。
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