「健康」は数字だけでは測れない:階段で築かれる “静かな資産”
健康診断の数値は、たしかにわかりやすいものです。
体重、血圧、血糖、コレステロール──。
グラフで上下が見えれば、安心もできるし、危機感も持てます。
けれども、40代半ばを過ぎたあたりから、私は気づきました。
“健康” という実感は、数字では説明できない領域にこそ宿っているのだと。
30代後半の頃、毎年の健康診断ではそこそこ良い判定をもらっていました。
それでも、朝の一歩目が重く、気力が湧かない日が続きます。
数字上は問題がないのに、なぜか “疲れが抜けない”。
そんな違和感を抱えていたとき、ふと始めたのが「階段の登り降り」でした。
特別なトレーニングではありません。
通勤の途中や買い物の際に、エレベーターを避けて階段を使う ─ ただそれだけです。
最初は、「こんなことで変わるはずがない」と思っていました。
けれども、1か月、3か月、半年と続けるうちに、
体の奥に “静かな蓄積” のようなものを感じるようになりました。
朝の目覚めが少し軽くなり、気分の波が穏やかになり、
「動くこと」への心理的な抵抗が少しずつ減っていきました。
体重が劇的に変わったわけではありません。
でも、「自分の身体を信頼できる感覚」が確実に育っていったのです。
そのとき、私はこう思いました。
これは数値化できないけれど、
確かに “資産” として自分の中に積み上がっているのではないか、と。
お金の資産は目に見えますが、健康資産は静かで、音もなく増えていきます。
階段を一段一段登り降りするたびに、
未来の自分の行動範囲や自由度、そして心の余裕が少しずつ広がっていく ─。
それは、まるで“複利で増える投資”のようだと感じました。
本記事では、そんな「階段の登り降り」を通して育まれた、
“見えない健康資産”の10の変化をまとめてご紹介します。
数字では測れないけれど、確かに人生を支えてくれる “静かな資産”。
その価値を、あなたにも感じていただけたら幸いです。
健康資産という考え方:未来を支える “見えない貯金”

お金を貯めるように、健康にも「積み上げ型の資産」があると考えています。
それは、毎日の小さな選択と行動の積み重ねによってしか増やせない、“未来の自由度” の貯金です。
たとえば、「階段を使う」「少し遠回りして歩く」「食事を一口ゆっくり噛む」──。
どれも一回だけでは何も変わりませんが、繰り返すことで “身体の文化” が形成されていくのです。
企業でいえば、これは財務諸表に載らない「企業文化」や「信頼資産」に近いものかもしれません。
“健康資産” は数値よりも習慣の安定性に宿る
血液データや体重は “決算書” のようなものです。
しかし、それを生み出す日々の行動 ─ すなわち習慣 ─ は、いわば経営の体質。
数字が良くても、無理を続けていれば企業は破綻します。
逆に、数字が多少悪くても、健全な文化をもつ組織は持続します。
健康もまったく同じ構造です。
「未来の自分の脚で歩く権利」を買い戻す
階段を登り降りするとき、筋肉や心肺機能だけでなく、バランス感覚・骨密度・神経反応が総合的に使われます。
この動作は、高齢期にリスクが高まる「転倒・フレイル(虚弱)」の予防にもつながります。
実際、国立長寿医療研究センターの報告では、日常的な階段昇降習慣を持つ中高年は、転倒リスクが有意に低いとされています。
また、有酸素運動は脳血流を増やし、記憶や意思決定に関わる前頭前野の働きを改善することが確認されています。
つまり、階段を登り降りするたびに、
私たちは “自分の脚で歩き続ける権利” を少しずつ買い戻しているとも言えるのです。

出典:活動的に過ごしてフレイル予防
Exercise can boost your memory and thinking skills
「見えない貯金」を積み上げる意識
人はつい、「やるからには成果を出したい」と思ってしまいます。
でも健康資産づくりは、“短期のリターンを求めない投資” です。
数値に現れなくても、眠りの深さ、朝の気分、集中力の回復速度 ─
そうした “感覚の質” の改善は、やがて数字を超えた成果として表れます。
行動科学でも、行動の自動化(habit loop)によって意思決定疲労が減り、ストレスが軽減することが示されています。
つまり、階段の登り降りのような単純な反復行為は、「考えずにできる健康投資」なのです。
何も考えず身体を動かす時間は、脳に “余白” を与える静かなリターンでもあります。

出典:Decision Fatigue: A Conceptual Analysis
「健康資産」は続けるほど安定する
資産運用において “複利” が働くように、健康習慣にも「継続の複利」が存在します。
最初の変化は小さくても、1年、3年、5年と積み上げるうちに、
「以前より疲れにくい」「少々の無理がきく」などの “体の耐久性” が生まれます。
そしてその実感こそが、次の行動を生むモチベーションになります。
目に見えないけれど、確かに積み上がっていくもの。
それが、階段の登り降りを通して得られる “健康資産” の本質です。
階段の登り降りがもたらした「数字に出ない10の変化」

階段の登り降りを続けていくうちに、私は「数字では測れない小さな変化」が確かに積み上がっていくのを感じました。
それは体重や血圧のように目に見えるものではなく、日々の体調や気分の “ベースライン” が少しずつ上がっていく感覚です。
以下の10項目は、そんな “見えない健康資産” がもたらした変化を、実体験と科学的根拠を交えて整理したものです。
① 朝の一歩目が軽くなった
目覚めてから動き出すまでの時間が短くなり、体が自然に動くようになりました。
これは、軽い有酸素運動によって筋肉内の血流やミトコンドリア活動が高まるためです。
研究でも、日常的な中強度運動が睡眠の質と起床時の活力を改善することが確認されています。
出典:Exercising for Better Sleep
② 「もうひと踏ん張り」がきく日が増えた
仕事の終わりや家事のあとでも、少し余力が残るようになりました。
これは心肺持久力(VO₂max)のわずかな改善によるものです。
階段の登り降りは短時間でも高強度インターバルトレーニングに近く、日常生活の疲労耐性を高めます。
③ イライラや不安の “ピーク” が小さくなった
同じ出来事でも、感情の波が以前より穏やかに感じられます。
身体活動によってセロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質が安定することが知られています。
ウォーキングや軽運動は、うつ症状やストレス反応を抑制する効果もあります。
出典:Exercise is an all-natural treatment to fight depression
④ 自分の体を信頼できる感覚が増えた
「疲れても戻れる」「無理しても回復できる」と感じるようになりました。
この “身体への信頼” は心理学的に自己効力感(self-efficacy)と呼ばれ、
運動習慣の継続とポジティブな自己評価を支える重要な要素です。
⑤ 風景の変化に気づく心の余裕が生まれた
階段を登り降りする途中に見える空や光の変化、風の匂いに気づくようになりました。
身体を動かすことで注意が “今この瞬間” に戻り、マインドフルネス的効果が得られるとされています。
⑥ 多少の食べ過ぎを怖がらなくなった
以前は食事のカロリーを気にしていましたが、今は「少し動けばリセットできる」と思えます。
日常的な活動量が増えると、代謝柔軟性(metabolic flexibility)が高まり、
一時的なエネルギー過剰にも対応しやすくなると報告されています。
出典:Metabolic Flexibility in Health and Disease
⑦ 「運動していない自分」への罪悪感が消えた
以前は “ちゃんと運動できていない” という焦りがありましたが、
階段を少し使うだけでも「継続している」という自信が持てるようになりました。
行動科学では、小さな成功体験を積み上げることが行動の自動化を促すとされています。
出典:Tiny Habits: The Small Changes that Change Everything
⑧ 階段の音が “努力の証拠” に聞こえるようになった
以前は息が上がる音が苦手でしたが、今ではそれが「積み上げている証拠」に思えます。
これは、行動と感情の連動(embodied cognition)による自己評価の変化。
身体感覚がポジティブな意味づけを得ることで、継続力が高まります。
⑨ 「未来の自分」に少し胸を張れるようになった
階段を登り降りするたびに、「この積み重ねが未来を支える」と思えるようになりました。
長期的な視点で行動を選ぶことは、“未来思考”の自己制御(future-oriented self-regulation)**を育てるとも言われています。
⑩ 健康情報に振り回されず、自分の軸で選べるようになった
SNSやメディアの “健康法ブーム” に左右されず、「自分には何が合うか」を判断できるようになりました。
これは、身体の感覚を通じて自己決定感(autonomy)が育つためです。
心理学では、自己決定感がストレス耐性や幸福度を高めることが報告されています。
出典:Self-Determination Theory: A Macrotheory of Human Motivation, Development, and Health
これらの10項目は、どれも検査結果には出てきません。
しかし、「暮らしの手触り」や「自分の回復力」といったかたちで確実に実感できます。
そしてこの “実感の積み重ね” こそが、数字以上に確かな「見えない健康資産」なのだと思います。
数字で測れた変化 vs 測れなかった変化

階段昇降を続けていくと、少しずつ “数字でわかる変化” も現れます。
私の場合、半年ほどで体脂肪率が約2%減り、血圧がわずかに安定しました。
健康診断の結果で「去年より少し良い」と言われたときは、静かな達成感がありました。
けれど、その数字よりも印象に残ったのは、「調子のいい日が増えた」という体感のほうでした。
数字で測れる変化:体が語る “見える成果”
血圧・体重・中性脂肪などのデータは、身体の状態を客観的に示してくれます。
それらは “成果のスナップショット” のようなもので、積み重ねの結果を可視化してくれます。
特に中強度の階段昇降は、短時間でも心肺持久力の改善や内臓脂肪減少に寄与することが複数の研究で報告されています。
出典:Climbing stairs linked to lower risk of heart disease
Stair-climbing interventions on cardio-metabolic outcomes in adults: A scoping review
こうしたデータは、自分の取り組みを確認する上で大切な “チェックポイント” になります。
ですが、数字がすべてではありません。
なぜなら、健康とは “数値の良否” だけで測れない、もっと複雑な全体性を持っているからです。
数字で測れなかった変化:“なんとなく調子がいい” という指標
階段を続けていると、ある日ふと気づきます。
「朝の集中力が長く続く」「寝起きの気分が明るい」「立ち上がりが軽い」。
こうした変化は検査項目には現れませんが、生活の質(Quality of Life)を底上げする重要な要素です。
実際、世界保健機関(WHO)が提唱する健康の定義には、
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being.”
とあり、“well-being(快調さ)” こそが健康の中心と位置づけられています。
つまり、数字で測れない「なんとなく調子がいい日が増えた」という実感も、
科学的には健康を構成するれっきとした一部なのです。
出典:WHO remains firmly committed to the principles set out in the preamble to the Constitution
日記・ログ・ブログは “見えない資産” を可視化するツール
私自身、階段の登り降りを習慣にしてから、簡単なログを残すようになりました。
「今日の階段は○○段」「朝の体の軽さ:5段階中4」─
そんなラフな記録でも、“自分の変化を追える” ことが励みになります。
心理学では、こうした「主観的な自己観察」は自己決定感と継続率を高めると報告されています。
数値の記録と感覚の記録、この両方をバランスよく持つこと。
それが、数字に縛られず、自分の健康を “自分で運営する” 第一歩になるのだと思います。
健康資産は “複利で増える”:やめなかった人だけが見える景色

健康資産の特徴は、続けるほど加速度的に価値が増えることです。
たとえ1回の階段登り降りがもたらす効果がわずかでも、それを毎日積み上げることで “体の地盤” が強化されていきます。
そしてあるとき気づくのです ─「少し無理をしても回復が早い」「気持ちが折れにくい」と。
この現象は、金融でいう “複利効果” ととても似ています。
最初は変化が見えにくくても、一定期間を超えると成果が指数的に伸びていく。
それは体の内部でも起きています。
筋肉・血管・神経系・代謝システムが少しずつ強化され、回復能力そのものが底上げされるのです。

継続が「体の記憶」になる
運動習慣には、“筋肉のメモリー効果(muscle memory)”と呼ばれる現象があります。
一度トレーニングで強化された筋肉細胞は、長い休養後も再び成長しやすくなることが確認されています。
つまり、多少サボってもゼロには戻らない。
身体は “過去の積み上げ” をちゃんと覚えてくれています。
この安心感が、「また始めよう」という気持ちを支えてくれます。
「ゼロには戻さない」思考法
健康づくりを挫折してしまう人の多くは、「続けられなかった=失敗」と考えてしまいます。
でも、本当は “再開できる状態を残すこと” が最も大切です。
行動科学の研究では、行動を長期維持する人は「計画よりもリカバリーの上手さ」が共通していると報告されています。
一度やめても、完全に投げ出さなければ「習慣の糸」は途切れません。
“完璧主義” ではなく、“回復主義” でいることが、長期継続の鍵です。
出典:Introducing the Habit Theory and Application Special Interest Group
続けるほど、自己信頼が積み上がる
続けるという行為は、「自分はやればできる」という自己信頼(self-trust)を強化します。
心理学では、この自己信頼の高まりがストレス耐性や幸福感の向上に直結することが示されています。
たとえ効果が目に見えなくても、「やめなかった自分がいる」という事実が、
人生全体を支える土台になります。
それはまるで、静かに利息を生み続ける “心身の貯金通帳” のようなものです。
階段を登る一歩一歩は、たかが数秒の動作です。
けれど、その小さな繰り返しが未来の自分に “複利の健康” をもたらしてくれます。
やめなかった人だけが見えるその景色は、努力ではなく「信頼の風景」と言えるのかもしれません。
出典:The impact of self-efficacy on psychological resilience in EFL learners: a serial mediation model
Psychological Factors Related to Positive Post-Breakup Adjustment: The Roles of Self-Concept Clarity, Resilience, Self-Esteem, and Optimism
身体に秘めた資産を“減らさない”ために気をつけていること

健康資産を積み上げていくうえで忘れてはいけないのが、「増やす日」と「守る日」を分ける意識です。
筋肉も、心も、投資しすぎると損をします。
階段の登り降りのような小さな運動習慣は “複利で増える” 一方で、
やりすぎると “利息を食いつぶす” ことにもなりかねません。
ここでは、私が意識している3つのポイントをご紹介します。
やりすぎない・怪我しない:関節を守るマイルール
続けるための最大の敵は「痛み」です。
特に膝や足首の関節は、日々の疲労が蓄積すると炎症を起こしやすくなります。
私は「息が弾むけれど会話できるペース」を目安にしています。
整形外科学では、軽度〜中等度の階段昇降は関節軟骨の代謝を促進し、膝の安定性を高めることが報告されています。
反対に、急なステップアップや下りの衝撃を繰り返すと、
膝蓋骨(しつがいこつ)周辺への負荷が増えやすいとも言われています。
無理をせず、“痛みゼロで続けられる負荷” こそが、最も効率的な健康投資です。
出典:How to Safely Climb Stairs
Take control of your knee pain
食事・睡眠・休む勇気:資産を増やす日/守る日の発想
「今日は動かない日」と決めることも、立派な習慣です。
休むことを “怠け” ではなく、“回復投資” と捉える視点が大切だと思います。
睡眠中、私たちの身体では成長ホルモンや筋肉修復系のたんぱく質合成が活発になることが知られています。
また、階段の登り降りのような運動の翌日は、
栄養と水分を意識して “身体のキャッシュフロー” を整える。
それが、健康資産を守る最良のリスクマネジメントになります。
出典:Brain Basics: Understanding Sleep
定期的な検査で「資産の棚卸し」をする
健康診断や血液検査は、資産の残高照会のようなものです。
数値が悪化していないか確認することは、安心材料にもなります。
一方で、数値に一喜一憂しすぎず、「傾向」を見ることが大切です。
たとえば、少しずつ血圧が上がってきたときは、
「食事や睡眠、ストレスとのバランスが崩れていないか?」と振り返るサインにします。
検査データは “結果” ではなく、“対話のきっかけ” です。
そしてその対話を通じて、「自分の身体の経営感覚」が磨かれていきます。
自分の身体を “資産” として管理するという意識が芽生えると、
無理も焦りも自然と減っていくのです。
健康資産は「増やす」よりも、
「減らさない」ことがいちばん難しく、いちばん価値のある行為だと思います。
守る=続けられる設計にすること。
それが、階段を通じて得た私の一番の学びでした。
まとめ:足音だけが響く朝に、密やかな資産が積み上がっていく

朝、まだ人が少ない時間に階段を登り降りしていると、
自分の足音だけが響く瞬間があります。
その音は、誰かに聞かせるためのものではなく、
「今日もまた積み上げている」という静かな証です。
階段の登り降りは、体を鍛える行為であると同時に、
心を整える小さな儀式でもあります。
息が弾み、足が重くなるたびに、
昨日までの疲れや迷いが少しずつ洗い流されていくように感じます。
数字では測れませんが、こうした “静かな蓄積” が、
気づけば心の余裕や、体への信頼感に変わっていきます。
それは誰にも奪われない、身体に秘めた無形の資産です。
長く続けていると、ある日ふと気づきます。
「焦らなくても、もう大丈夫だ」と。
それは、努力の結果ではなく、継続が育てた安心です。
少しずつ築いてきたこの健康資産が、
これからの人生を支える静かな土台になっていくのだと思います。
足音の一つ一つは小さくても、確かに未来へ響いています。
それは、“成果” ではなく “信頼” の音。
目に見えないけれど確かに積み上がっていく、
自分だけの健康資産が、今日も静かに増えているのです。
おことわり
本記事は医療的助言を目的とするものではなく、日常生活の中で心身のバランスを整えるための一般的なヒントを紹介しています。
内容の効果には個人差があり、実践の際はご自身の体調に合わせて無理のない範囲で行ってください。
既往症のある方、体調に不安のある方は、必ず医師や専門家にご相談のうえ実施してください。
本記事で使用した画像はNapkin AIを利用しています。
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