階段の登り降りで脳はなぜ冴える?:乳酸は瞬発、ケトン体は持続という “二層電源” の正体

  • URLをコピーしました!
目次

階段の登り降りで感じる「二種類の冴え」の正体

階段の登り降りをすると、息が上がり、脚は重くなる。
それなのに、不思議と頭は冴えてくる

前回の記事では、この現象の背景にある「乳酸」の役割を解説しました。

乳酸は疲労物質ではなく、運動中に立ち上がる “即応型のエネルギー”
階段で心拍が上がると、筋肉だけでなく脳にもエネルギーが届けられ、思考がクリアになる

ここまでが、いわば “瞬発の冴え” の話です。

しかし、こんな疑問も浮かぶかもしれません。

朝の空腹時。
まだ何も食べていないのに、静かに集中できる感覚
カフェインとは違う、落ち着いた覚醒

あの冴えは、乳酸とは少し質が違うように感じませんか?

実はそこには、もうひとつの電源が働いています。
それが「ケトン体」です。

脳のエネルギー源といえばブドウ糖が有名ですが、
私たちの身体はそれだけに依存していません。

状況に応じて、複数の燃料を使い分けています。

運動中に立ち上がる “瞬発電源” としての乳酸
空腹時に静かに支える “持続電源” としてのケトン体

どちらが正しい、という話ではありません。
大切なのは、脳が賢く電源を切り替えているという事実です。

階段の登り降りは、そのスイッチを自然に押す行為とも言えます。

本記事では、
乳酸とケトン体を「対立」ではなく「役割分担」として整理し、
階段習慣がなぜ理にかなっているのかを、代謝の視点から解き明かしていきます。

苦しいのに冴える理由。
静かなのに集中できる理由。

その両方をつなぐのが、脳の “二層電源構造” です。

合わせて読みたい

乳酸とケトン体は対立しない:脳のハイブリッド電源構造

脳のエネルギー源の切り替え

なぜ「糖質 vs ケトン」の対立構図が生まれたのか

近年、「糖質は悪」「ケトン体こそ脳の最適燃料」といった極端な議論が広まりました。
一方で、「脳のエネルギー源はブドウ糖だけ」という旧来の説明も根強く残っています。

しかし実際の生理学は、どちらか一方を排除する構造ではありません

状況依存的に複数の基質を使い分ける臓器です。

例えば ―

通常の食後状態 → 主にグルコース利用
絶食・低糖質状態 → ケトン体利用増加
運動中 → 乳酸利用増加

これは動物実験・ヒト研究の双方で確認されています。

重要なのは、「どちらが優れているか」ではなく、
どの状況でどの電源が優位になるかです。

出典:The Science and Translation of Lactate Shuttle Theory
Brain metabolism during fasting

代謝は “状況依存” で切り替わる

エネルギー経路の切り替え

私たちの代謝は固定的ではありません。

影響する主な因子

心拍数(運動強度)
血糖値
インスリン分泌
酸素供給
運動時間

たとえば階段の登り降りでは、

心拍が上昇
 ↓
筋肉の解糖系が加速
 ↓
乳酸が産生
 ↓
血中乳酸濃度が上昇
 ↓
がそれを取り込む

一方、朝の空腹状態では、

インスリン低下
 ↓
脂肪分解促進
 ↓
肝臓でケトン体生成
 ↓
血中βヒドロキシ酪酸上昇(血液中に存在する「ケトン体」の一種)
 ↓
が利用

どちらも生理的な反応です。

ハイブリッド発電としての脳

ここで重要な視点があります。

は単一燃料エンジンではありません。
むしろハイブリッド発電システムに近い。

ベース電源:グルコース
持続電源:ケトン体
瞬発電源:乳酸

運動中、乳酸の取り込みが増加することは
ヒト脳PET研究でも確認されています。

この「同時利用・状況選択」こそが本質です。

つまり ―

乳酸 vs ケトン体ではない。
乳酸 + ケトン体
なのです。

出典:Blood lactate is an important energy source for the human brain

階段の登り降りという具体的な運動の中で、
乳酸がどのように “瞬発電源” として立ち上がるのかを見ていきましょう。

苦しいのに冴える」あの感覚の、生理学的背景に入ります。

乳酸:階段の登り降りで立ち上がる “瞬発電源”

心拍上昇と解糖系の加速

階段の登り降りを始めると、まず起こるのは心拍数の上昇です。
とくにやや息が弾む程度(中強度以上になると、筋肉ではエネルギー需要が急増します。

このとき優先的に使われるのが「解糖系」です。

筋肉内のグリコーゲンが分解
 ↓
グルコース → ピルビン酸
 ↓
産生速度がミトコンドリア処理能力を上回る
 ↓
余剰ピルビン酸が乳酸へ変換

重要なのは、乳酸は「酸素不足の産物」ではないという点です。
近年は「代謝フラックス(処理速度)の問題」と理解されています。

つまり階段の登り降りとは、
乳酸を産生しやすい状態を意図せず、自然に作る運動なのです。

出典: The Science and Translation of Lactate Shuttle Theory

乳酸は脳へ運ばれる

かつて乳酸は「疲労物質」と誤解されていました。
しかし現在では、乳酸は全身を循環するエネルギー基質であることが知られています。

血中乳酸が上昇すると、

モノカルボン酸トランスポーター(MCT)を介して
 ↓
血液脳関門を通過
 ↓
神経細胞やアストロサイトで利用

という流れが起こります。

ヒト研究では、運動時に脳が乳酸を積極的に取り込むことが示されています。

ここで重要なのは、
乳酸は「余りもの」ではなく、
需要に応じて利用される燃料であるという事実です。

出典:Blood lactate is an important energy source for the human brain

なぜ「苦しいのに冴える」のか

階段の登り降りで息が上がるとき、
前頭葉の血流はむしろ増加します。

心拍出量増加
 ↓
脳血流増加
 ↓
乳酸供給増加
 ↓
神経活動サポート

この状態は、いわば脳のターボモード

瞬間的な判断力や注意力が高まるのは、
カフェインのような刺激ではなく、代謝的な即応エネルギー補給によるものです。

実際、急性運動が実行機能を向上させることは多数報告されています。

つまり階段運動で感じる、
きついのに、頭はクリア
という体感は、偶然ではありません。

それは ―
乳酸という瞬発電源が脳を直接支えている状態なのです。

乳酸=運動中に立ち上がる即応電源
 ↓
心拍上昇がスイッチ
 ↓
はそれを積極的に利用する

では次に、
朝の空腹時に感じる “静かな冴え はどうでしょうか。

そこでは、より穏やかで持続的な電源が働いています。

出典:The effects of acute exercise on cognitive performance: a meta-analysis

ケトン体:空腹時に働く “持続安定電源”

なぜ朝の空腹時は「静かに冴える」のか

、まだ何も食べていないのに、頭がすっと澄む感覚
階段の後の “ターボ的な冴え” とは違い、どこか落ち着いた集中

この背景で働いているのがケトン体です。

ケトン体はどう作られるか

夜間の絶食状態では、

インスリン分泌が低下
 ↓
脂肪組織から脂肪酸が放出
 ↓
肝臓で脂肪酸がβ酸化
 ↓
アセト酢酸・βヒドロキシ酪酸(BHB)が生成

このβヒドロキシ酪酸(BHB)が、脳の重要なエネルギー源になります。

長期絶食では、脳エネルギーの50%以上をケトン体が担うことが示されています。

出典:Brain metabolism during fasting

血糖が安定するという意味

ケトン体利用が増えると、

血糖値の変動幅が小さくなる
インスリン分泌が安定
交感神経の過剰刺激が減る

その結果、

急な眠気や集中切れが起きにくい状態になります。

これは「覚醒が強い」というより、
エネルギーの揺らぎが少ない状態と言ったほうが正確です。

出典: Fuel metabolism in starvation

ケトン体は “神経保護的” でもある

近年の研究では、ケトン体は単なる燃料ではなく、

酸化ストレス低減
ミトコンドリア効率改善
炎症抑制

といった作用も示唆されています。

つまりケトン体は、

静かに、しかし安定的に脳を支えるベース電源なのです。

出典:β-Hydroxybutyrate: A Signaling Metabolite

乳酸とケトン体の違いを整理:脳が選ぶエネルギーの使い分け

乳酸ケトン体
運動中に上昇絶食時に上昇
即応・瞬発型持続・安定型
心拍上昇がスイッチインスリン低下がスイッチ
ターボモードベースモード

どちらも正しい
どちらも必要

常に「最適な電源」を選んでいます。

そして、ここで Persistent-Wins 的に重要なのは ―

階段の登り降り×朝活という組み合わせは、
この二つの電源を “同時に走らせる条件” になっているという点です。

この「二層電源の並列運転」を解き明かします。

階段の登り降り×朝活で “二層電源” が同時稼働する

脳のエネルギー源

ここまで整理してきたように、

乳酸=運動中に立ち上がる瞬発電源
ケトン体=空腹時に働く持続電源

です。

では、朝の空腹状態で階段の登り降りを行うとどうなるのか

そこでは、代謝的に非常に興味深い状態が起こっています。

背景ではケトン体がすでに稼働している

は、軽い絶食状態です。

インスリンは低め
脂肪分解は進行中
血中βヒドロキシ酪酸は上昇傾向

つまり、持続電源(ケトン体)はすでにオンライン状態です。

階段で乳酸が “追加点火” する

階段の登り降りを始めると、

心拍上昇
 ↓
解糖系加速
 ↓
乳酸産生
 ↓
への乳酸供給増加

が起こります。

つまり、

ベース電源が稼働しているところに、ブースター電源が加わる

これが「冴え続ける」感覚の構造です。

並列運転という視点

ここで大切なのは、

は電源を “切り替える” だけではなく、
並列的に使うこともできる

という点です。

実際、脳は

グルコース
乳酸
ケトン体

を状況に応じて同時利用します。

つまり朝の階段習慣は、

背景にケトン体
追加で乳酸
必要に応じてグルコース

という小型ハイブリッド発電所の状態を作っているのです。

出典:Brain lactate metabolism: the discoveries and the controversies

なぜ「冴えが持続する」のか

冴えの持続メカニズム

階段の登り降り開始直後は乳酸による瞬発的な覚醒

その後はケトン体ベースとして支える

だから、

最初にシャキッとする
その後も安定する

という二段階の冴えが起こる。

これは刺激ではなく、
代謝設計による覚醒です。

習慣としての再現性

ここが Persistent-Wins 的に重要です。

特別なサプリも、極端な糖質制限もいりません

朝の自然な空腹
通勤動線にある階段
軽〜中強度の数分間

これだけで、二層電源は起動します。

だからこそ、

続けられる。
そして複利化する。

脳は賢く電源を選んでいる

乳酸=瞬発
ケトン体=持続

階段の登り降りはその両方を自然に動かします。

苦しいのに冴える理由。
静かに集中できる理由。

それは意思の強さではなく、
代謝の構造です。

だからこそ、今の階段登り降り習慣は理にかなっている

特別なことをしなくても、
身体はすでにハイブリッドなのです。

まとめ:だからこそ、階段の登り降りは “ちょうどいい”

ここまで読んでくださった方は、こう思うかもしれません。

「理屈はわかった。
でも、どれくらいやればいいのか?

結論から言えば ―

強すぎなくていい。
長すぎなくていい。

階段の登り降りは、代謝スイッチを押す “きっかけ” になれば十分です。

強度はどれくらいでいいのか

目安は、

少し息が上がる
会話がやや難しい
でも全力ではない

いわゆる中強度(moderate intensity)です。

このレベルで、筋肉内の解糖系は十分に刺激され、乳酸は適度に上昇します。

重要なのは「追い込むこと」ではありません。

スイッチが入る強度で止めること

出典:Lactate as a fulcrum of metabolism

何分やればいいのか

急性運動による認知機能向上は、短時間でも起こることが示されています。

2〜5分程度の階段でも、

心拍は上がる
乳酸は上がる
脳血流は増える

「長時間やらなければ意味がない」というわけではありません。

毎朝のエレベーターを階段に変えるだけで、
代謝は確実に動きます。

出典:The effects of acute exercise on cognitive performance: a meta-analysis

極端な糖質制限は必要か?

今回のテーマから導かれる答えは明確です。

不要です

なぜなら脳は、

グルコース
乳酸
ケトン体

状況に応じて使い分けるからです。

これを代謝柔軟性(metabolic flexibility)と呼びます。

重要なのは、
単一燃料に固定しないこと

階段の登り降りは、この柔軟性を保つ刺激になります。

出典:Metabolic Flexibility in Health and Disease

習慣は “複利” で効いてくる

1回の階段で劇的に変わるわけではありません。

しかし、

乳酸による瞬発刺激
ケトン体による持続安定
血流改善
ミトコンドリア刺激

これらが積み重なる

これが Persistent-Wins の思想です。

運動=モード切替
習慣=複利化

だからこそ、派手さはいらない

階段の登り降りは、

強すぎない
難しすぎない
生活動線にある

という意味で、“ちょうどいい”。

階段の登り降りは、脳の電源スイッチになる

苦しいのに冴える理由。
静かなのに集中できる理由。

それは意志の問題ではなく、
代謝の設計図です。

あなたの身体はすでにハイブリッド

階段の登り降りは、その電源スイッチを自然に押す行為

だからこそ ―

今の習慣を、続けていい

むしろ、続けるほど理にかなっていきます

おことわり

本記事では、乳酸やケトン体の研究知見をもとに、階段の登り降りと脳のエネルギー利用の関係を解説しました。

ただし、脳のエネルギー代謝は非常に複雑であり、個人差や健康状態によって反応は異なります。

紹介した研究の多くは急性運動や絶食条件下でのデータであり、日常生活での効果を直接保証するものではありません。

持病のある方、低血糖を起こしやすい方、極端な食事制限を行っている方は、無理のない範囲で実践してください。

本記事は医療行為や治療を目的とするものではなく、一般的な健康情報の提供を目的としています。

本記事で使用した画像はNapkin AIを利用しています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

“じみ” に “もくもく” と “すきなこと” を “継続する” ことが最近の楽しみです。

『人生を自由に楽しく』が目標です。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次