階段を使えば、短時間でも “本格HIIT” になる
「HIIT(高強度インターバルトレーニング)」と聞くと、激しいバーピーやダッシュ、専門的なジムトレーニングを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし実は、日常のなかにある「階段」でも十分にHIITの効果を得ることができます。
階段の登り降りは短時間で心拍数を上げやすく、太ももやお尻などの大きな筋肉を同時に使う全身運動です。
ただし、勢いに任せて全力で登るだけでは危険です。膝や腰に負担をかけてしまったり、心拍数が過剰に上がることもあります。
大切なのは、「安全に強度をコントロールすること」。自分に合ったペースで行えば、階段の登り降りはジムに匹敵するトレーニングツールになります。
本記事では、階段を使ったHIITを安全に取り入れる方法を、具体的なメニュー・時間・強度の目安とともに紹介します。
忙しい人でも、わずか数分で体脂肪を効率的に燃焼させる “時短トレーニング” として活用できるようになります。
階段は本当にHIITになるのか?

「階段の登り降りはHIITになる」と言われても、半信半疑に感じる人は多いでしょう。
しかし、実際には階段の登り降りは短時間で心拍数を急上昇させ、筋力と持久力の両方を鍛えられる “高強度インターバル運動” として非常に優れています。
カナダのマクマスター大学の研究では、「階段を約20秒間、最大努力で登り、休憩を挟む」短時間のインターバルトレーニングを3セット行うだけで、従来の中強度の有酸素運動(約20〜30分)と同等の心肺機能改善効果が得られる ことが報告されています。
この実験では、被験者は 3フライト(約60段)を 20秒前後で登る高強度の階段ダッシュを3本 実施し、
これを週3回 × 6週間続けました。
その結果、最大酸素摂取量(VO₂max)が有意に向上し、従来のスプリントインターバルトレーニング(SIT)と
同程度の効果を示しました。
また、アメリカ運動生理学会(ACSM)では、HIIT を「高強度の運動と低強度の回復を短い間隔で繰り返すトレーニング」と説明しており、その強度は “near-maximal(全力に近い effort)” とされています
階段を全力で登る動作はこの強度域に自然に入りやすく、心拍数を短時間で150〜170 bpmに上げることが可能です。
つまり、階段を使った短時間・反復的な運動は、HIITの科学的条件を十分に満たしているということです。
さらに階段の登り降りには、スプリントやジャンプHIITに比べて以下のような利点があります。
これらの特徴から、階段HIITは初心者から中級者まで取り組みやすく、時間効率が高いトレーニングとして注目されています。
特に、「運動不足を解消したいが、長時間の運動は続かない」という人にとって、階段HIITは最も手軽な選択肢のひとつです。
出典:Brief Intense Stair Climbing Improves Cardiorespiratory Fitness
Brief Vigorous Stair Climbing Effectively Improves Cardiorespiratory Fitness in Patients With Coronary Artery Disease: A Randomized Trial
Training effects of short bouts of stair climbing on cardiorespiratory fitness, blood lipids, and homocysteine in sedentary young women
High-Intensity Interval Training: For Fitness, for Health or Both?
Evidence-Based Effects of High-Intensity Interval Training on Exercise Capacity and Health: A Review with Historical Perspective
階段HIITの効果:脂肪燃焼と代謝アップの両立

階段を使ったHIITは、短時間でも驚くほどのエネルギー消費と代謝向上をもたらします。
これは、筋肉の多い下半身を中心に強い負荷をかけながら心拍数を高めるため、「筋トレ+有酸素」の両方のメリットを同時に得られるからです。
脂肪燃焼効果:アフターバーンが続く
HIITの最大の特徴は、運動後も脂肪燃焼が続く「EPOC(Excess Post-exercise Oxygen Consumption)」効果です。
運動後の酸素消費量が高まることで、安静時でもエネルギー消費が増加します。
アメリカの研究によれば、HIIT後のEPOCは中強度運動の約2倍に達することが確認されています。
階段HIITの場合、登り降りの動作で大腿四頭筋・臀筋・ふくらはぎが集中的に使われ、
筋肉中のグリコーゲン消費量が多くなるため、EPOC効果がより顕著に現れます。
つまり、4〜10分の階段HIITでも、運動後数時間にわたって脂肪燃焼が続くということです。

出典:Effects of exercise intensity and duration on the excess post-exercise oxygen consumption
心肺機能の向上:VO₂maxを効率的に高める
HIITは従来の有酸素運動よりも短時間で心肺機能(VO₂max)を向上させることが分かっています。
McMaster大学の研究では、1セッションあたり 3 × 20秒の全力階段昇降(合計 “all-out” 約1分) を、週3回 × 6週間 行ったところ、最大酸素摂取量(VO₂peak)が 約12%向上 しました。
これは、従来の高容量の持久運動と同等またはそれに近い心肺機能の向上を示すもので、非常に時間効率のよいトレーニング法であることが示されています。
階段を登る動作は、重力に逆らう抵抗運動であるため、心拍数の上昇が早く、酸素摂取効率を高める効果が特に大きいのです。

出典:Brief Intense Stair Climbing Improves Cardiorespiratory Fitness
筋肉と基礎代謝の強化 ― 太ももとお尻に効く
階段HIITでは、特に大腿四頭筋・ハムストリングス・臀筋が強く刺激されます。
これらは人体の中で最も大きな筋肉群であり、ここを鍛えることは基礎代謝の向上につながります。
筋肉量が増えると、安静時でもエネルギー消費が高まり、「太りにくい体質」を作ることができます。
また、階段HIITはバーピーやジャンプ系HIITに比べて関節への衝撃が小さく、
特に中高年層や運動初心者でも安全に下半身を鍛えやすいというメリットがあります。
精神的リフレッシュと集中力アップ
短時間でも心拍数を上げると、脳内でセロトニンやエンドルフィンが分泌されます。
この現象は「ランナーズハイ」に似たメカニズムで、気分の高揚や集中力の向上に寄与します。
階段HIITを昼休みや仕事前に取り入れると、ストレス解消や仕事効率の改善にも効果があります。
階段HIITは、脂肪燃焼・心肺機能・筋力・メンタルのすべてを短時間で刺激できる、
まさに “時短ハイブリッド運動” です。
出典:Exercise is an all-natural treatment to fight depression
Exercising to relax
安全に強度を調整する方法:「全力」よりも「コントロールされた高強度」を意識

階段HIITの効果を最大化するうえで最も重要なのは、「強度のコントロール」です。
HIITは短時間で高い運動負荷をかけるトレーニングですが、“限界まで頑張る” ことが目的ではありません。
適切な強度を守ることで、怪我を防ぎながら脂肪燃焼・心肺機能向上の両方を安全に得られます。
心拍数を目安に強度を管理する
アメリカ運動評議会(ACE)は、HIIT を「短時間の高強度運動と回復を繰り返すトレーニング」と定義しており、
強度の目安としては 主観的運動強度(RPE)で 7〜10(かなりきつい〜全力に近い) を推奨しています。
また、ACE の心拍ゾーンでは、高強度域は最大心拍数(HRmax)の約 80〜89%以上とされており、
HIIT を行う際の心拍指標として利用できます。
最大心拍数は一般的に「220 − 年齢」で推定できます。
例えば 40 歳の場合、推定最大心拍数は 180 bpm、
高強度域(ゾーン4〜5)となるのは 約 144〜180 bpm となります。
初心者の場合は、いきなりこの範囲を狙うのではなく、70〜80%(中強度)から始めましょう。
スマートウォッチを活用すると、リアルタイムで心拍数を確認でき、無理なく “安全な高強度ゾーン” を維持できます。
出典:How to Use the ACE IFT Model to Design Effective HIIT Workouts
段数とテンポを調整する
階段の高さや段数によって、負荷は大きく変わります。
初心者は1段ずつテンポよく上るだけでも十分な負荷になりますが、
慣れてきたら「2段飛ばし」や「リズム変化」を取り入れることで強度を上げられます。
テンポを上げすぎるとフォームが崩れて転倒のリスクが増すため、
「姿勢を保てる範囲で少し息が上がる」ペースが理想です。
具体的には、1分間に約70〜90段(毎秒1〜1.5段)のテンポを目安にしましょう。
運動中はつま先で着地し、膝を伸ばしきらないようにすると衝撃を和らげられます。
インターバルの長さを工夫する
HIITでは、「運動時間」と「休息時間」の比率(ワーク:レスト比)」を調整することで、負荷を細かくコントロールできます。
代表的な比率は「1:1」または「1:2」など、休息を比較的多くとる方法から始め、慣れてきたら休息を短くする設定に移行するのが、安全かつ効果的です。
たとえば、20秒登って20秒休む、または20秒登って40秒休むといった設定です。
実際に、若年アスリートを対象とした研究では、1:2 や 1:4, 1:8 のワーク/レスト比を用いた HIIT で VO₂max など心肺/無酸素能力の改善が確認されています。
ただし、「2:1(運動時間が休息時間の2倍)」など強度をさらに高める設定については、現在の文献では標準 Protocol として広く報告されているわけではありません。導入段階では、まず休息を多めにした比率から始めるのが安全です。
出典:Effects of Various Work-to-rest Ratios during High-intensity Interval Training on Athletic Performance in Adolescents
Comparison of High-Intensity Interval Training to Moderate-Intensity Continuous Training in Older Adults: A Systematic Review
ウォームアップとクールダウンを忘れない
階段HIITは心拍数が急上昇しやすい運動のため、開始前後の準備が特に重要です。
運動前は1〜2分の軽い階段ウォークや足首・膝の可動域ストレッチを行い、筋肉と関節を温めておきましょう。
終了後は、下半身を中心にクールダウン(階段をゆっくり降りる・屈伸・ふくらはぎ伸ばし)を行うことで、
乳酸の蓄積を防ぎ、翌日の疲労を軽減できます。

怪我を防ぐためのフォームチェックポイント
- 背筋を伸ばして前傾しすぎない
- 手すりはバランス補助に使う(体重を預けない)
- 膝は常に足先の向きと揃える
これらを守ることで、膝や腰のトラブルを予防しながら、狙った筋肉を正確に刺激できます。
階段HIITの魅力は、“強度を調整できる柔軟性” にあります。
自分の体力と目的に合わせてペースを変えれば、
初心者でも安全に「短時間で効果が出る運動」を習慣化できます。
階段HIITの実践メニュー :時間・目的・レベル別に効果を引き出す

階段HIITの魅力は、トレーニング環境や体力レベルに応じて自由に強度と時間を調整できることにあります。
ここでは、初級・中級・上級の3段階に分けて、実際の運動メニューを紹介します。
いずれも1日10分以内で完結する構成です。
初級者向け:5分間メニュー(脂肪燃焼・体力慣らし)
このメニューは、まず “心拍数を上げる感覚” を身体に覚えさせることを目的とします。
階段の段数は1往復(2階分)でOK。テンポは「やや息が弾むが会話できる程度」。
体重60 kgの人で約50〜70 kcalを消費します。
週2〜3回を目安に続けることで、2〜3週間後には息切れが減り、日常の疲れにくさを実感できます。
出典:Compendium of Physical Activities
中級者向け:8分間メニュー(心肺機能と下半身強化)
心拍数が一気に上がり、息が荒くなる強度です。
登りでは腕を大きく振り、上体をやや前傾させて重心を安定させます。
筋肉では特に大腿四頭筋・ハムストリング・臀筋が主に使われ、階段2〜3階分を連続で登るとより効果的です。
階段を使った HIIT の研究では、たとえば Allison らの報告で、週3回 × 6週間のプログラムにより VO₂max(最大酸素摂取量)が約 12%向上した、というデータがあります。
出典:Brief Intense Stair Climbing Improves Cardiorespiratory Fitness
上級者向け:12分間メニュー(高強度・筋持久力強化)
このメニューはタバタ式(20秒運動+10秒休憩×8)の応用版です。
階段HIITでは、筋肉への負荷が大きく、全身の酸素需要も高まるため、タバタ式以上の燃焼効果が期待できます。
体重60 kgの場合、1回で約120〜150 kcalを消費します。
ただし、最大心拍数の90%近くまで上がるため、週2回を上限にし、十分な休養日を確保してください。
環境別の工夫と続けるコツ
- 自宅・オフィス: 2階程度の階段を往復。室内なら滑り止め付きスニーカーを使用。
- 駅や屋外: 混雑を避け、手すりがある場所を選ぶ。
- 朝に実施: 代謝を上げて一日をアクティブに。
- 夜に実施: ストレスリセット・睡眠の質向上に効果的。
また、スマートウォッチやアプリで記録を取ることで、モチベーション維持とフォーム改善に役立ちます。
階段HIITは「やり方次第で、4分でも効果が出る運動」です。
大切なのは、自分に合った負荷を選び、少しずつステップアップすること。
無理のないペースで一段ずつ積み重ねれば、気づいたときには身体も心も軽くなっていきます。
階段HIITを続けるコツと注意点:「短く」「安全に」「無理なく」

階段HIITは短時間でも大きな効果が得られる一方で、強度が高いため、継続性と安全性のバランスが大切です。
「頑張りすぎて三日坊主」にならないために、身体的・心理的な両面からポイントを押さえましょう。
毎日よりも “週2〜3回” が効果的
HIITは筋肉と心肺に強い負荷をかけるため、連日の実施は逆効果になる場合があります。
一部の実践例や研究では、HIIT の頻度として「週 2〜3 回」が用いられることがあります。例えば、心血管疾患のある成人向けガイドではこの頻度が一つの目安として提示されています。
そのため、階段HIITを行う日は「月・水・金」などの固定パターンにすると、習慣化しやすくなります。
疲労が強い日は “階段ウォーク” に切り替える
疲労感が強い日や睡眠不足の日は、HIITを無理に行うよりも、軽めの階段ウォーク(1段ずつ、5〜10分)に切り替えましょう。
これでも血流促進や体温上昇により、軽い有酸素運動効果が得られます。
「どんな日も、少しだけでも身体を動かす」ことが、運動習慣を ”ゆるく”、長く続けるコツです。
モチベーションを維持する工夫
継続のためには “成果が見える化” していることが重要です。
スマートウォッチやアプリを使って、運動時間・心拍数・消費カロリーを記録すると、数値の変化が励みになります。
運動を SNS や家族・友人と共有することで、「応援」や「他者への報告義務(accountability)」が生まれ、運動の継続率や習慣化が高まりやすいという報告があります。
出典:Tailored physical activity behavior change interventions: challenges and opportunities
膝・腰のケアとフォーム意識
階段HIITでは、膝と腰に負担がかかりやすいため、フォームとケアを意識しましょう。
- 姿勢: 背筋をまっすぐに、体重をかかとではなく母趾球に乗せる
- 膝の向き: 足先と同じ方向を保つ
- 手すり: バランス補助として軽く添える
トレーニング後は、太もも・ふくらはぎのストレッチを各30秒ずつ行うことで、筋肉痛を軽減できます。
出典:Take control of your knee pain
無理せず “続けられる運動” に変える
階段HIITは、やる気が出ない日でも「1分だけ」と決めて取り組める点が最大の強みです。
気分が乗っているときに強度を上げ、疲れている日はペースを落とす。
この “強弱のリズム” をつけることで、長期的に継続できます。
無理なく続けることこそが、身体を変える最短ルートです。
まとめと行動ステップ:階段でできる最短・最強の運動習慣

階段は、器具も時間もいらない “身近なHIITツール” です。
短時間でも心拍数を一気に上げ、下半身の大筋群を動かすことで、脂肪燃焼・筋力アップ・代謝改善を同時に叶えられます。
研究では、わずか数分の高強度階段運動が長時間の有酸素運動に匹敵する心肺機能の向上をもたらすことが示されています
ただし、効果を最大化するためには「安全な強度コントロール」と「継続性」が欠かせません。
初めのうちは “息が上がる程度” の強度で十分です。
最も大切なのは、「今日から始めて、明日も続けること」です。
出典:Brief Intense Stair Climbing Improves Cardiorespiratory Fitness
明日から始める3ステップ
- 1分の階段ウォークでウォームアップ:
- ふくらはぎや膝を軽く動かして、体を温めてからスタート。
- 20秒登る+40秒休む × 5セット(約5分):
- 息が弾み始めたら、心拍数を確認しつつペースを維持。
- 終わったらストレッチ&記録:
- 下半身を伸ばしながら、アプリや手帳に運動内容をメモする。
この5分を1日のどこかに取り入れるだけで、1週間後には「体が軽くなった」「疲れにくくなった」と感じるはずです。
階段HIITは、あなたの生活に最も自然に溶け込む “時短トレーニング”。
まずは今日、最寄りの階段を1往復してみましょう。そこから、すべてが変わり始めます。
おことわり
本記事は、公開時点の研究データや専門機関の情報をもとに一般的な健康・運動知識を紹介したものです。
記載内容は医療・診断・治療を目的とするものではありません。
持病がある方や体調に不安のある方は、運動を始める前に医師や専門家にご相談ください。
運動開始前には、必ずご自身の健康状態を確認し、必要に応じて医師の指導を受けてください。
本記事で使用した画像はNapkin AIを利用しています。
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