朝5分の階段昇降が変える、あなたの代謝のスイッチ
朝、目覚めてすぐの体は「スイッチがまだ入っていない」状態です。そんなとき、もし “たった5分” の階段の登り降りで代謝を整え、1日をエネルギッシュにスタートできるとしたら — あなたは試してみたくなりませんか?
私は医療職という仕事柄、時間が限られた中でも健康を維持する方法を探し続けてきました。中でも「朝の5分間の階段登り降り」が、代謝や集中力、さらには血糖の安定にまで影響することを、日々の体感と数値の変化から強く実感しています。
この記事では、朝の短時間運動がなぜ代謝に効くのかを「時間栄養学(クロノニュートリション)」と「EPOC(運動後過剰酸素消費量)」の2つの観点から解説します。これらの科学的根拠をベースに、実際に5分の階段の登り降りを取り入れた生活でどんな変化が起きたのか、リアルな体験も交えながらご紹介します。
結論から言えば、「短くても朝に動くこと」が鍵です。そして、階段という身近なツールを活かすことで、誰でもコストゼロで代謝を味方につけることができます。
「忙しい朝に、どうやって運動時間を確保するのか?」
「そもそも短時間の運動に意味はあるのか?」
そんな疑問に対して、この記事が明確な答えを示します。読み終えるころには、明日の朝、階段を見つめる目が変わっているかもしれません。
朝の運動が体に与える “静かな効果” とは?

朝の時間帯に運動をすることには、じつは代謝を効率よく高める効果があることをご存じでしょうか。
近年の研究では、朝に運動を習慣にしている人ほど、肥満リスクが低く、体脂肪が減りやすい傾向が確認されています。たとえば、アメリカの CDC による全国健康栄養調査を用いた分析では、午前7〜9時の運動を定期的に実施する人は、BMI(体格指数)やウエストサイズが低いという結果が出ています。これは、朝の運動が脂肪燃焼や食生活の改善と関連していると考えられています。
さらに、モーニングに行う高強度有酸素運動を、同じ内容を午後に行う場合と比較した研究では、前者の方が血圧の低下やインスリン抵抗性の改善につながりやすいことが示されました。
これらの効果は「時間栄養学(chrononutrition)」の観点からも説明できます。時間栄養学とは、食事や運動のタイミングを体内の概日時計(サーカディアンリズム)に合わせることで、代謝効率が上がるという考え方です。朝は体のインスリン感受性が高く、血糖も安定しやすいため、朝の短時間運動は空腹時にカロリーを効率的に使える有利なタイミングとなり得ます。
また、朝運動には集中力アップや自律神経のスイッチオン効果も期待できます。朝の段階で交感神経が刺激され、脳にも代謝にも良い “スイッチ” が入る状態が作りやすいのです。加えて、朝に運動を済ませることで、日中の予定に左右されず「やらなきゃ」→「できた」という心理的満足が得られ、結果として継続率の高い習慣化につながるという利点も指摘されています。
このように、朝の短時間運動には「代謝効率の向上」と「習慣化のしやすさ」というダブルのメリットがあります。本記事で扱う5分の階段の登り降りも、この “朝の力” を最大限に引き出すための工夫として位置づけられます。
出典:Early morning exercise may be the best time for weight loss
Efficacy of morning versus afternoon aerobic exercise training on reducing metabolic syndrome components: A randomized controlled trial
Chrononutrition
Consistent Morning Exercise May Be Beneficial For Individuals with Obesity
EPOCとは?たった5分でも「あとから燃える」科学的メカニズム

運動をした後、しばらく代謝が高い状態が続く ― これが、いわゆる「アフターバーン効果」として知られる EPOC(運動後過剰酸素消費量:Excess Post‑Exercise Oxygen Consumption) です。
EPOCの仕組みはこうです:運動中に使ったエネルギーを補償するために、心拍や呼吸が回復し、体温やホルモンバランスが正常化するプロセスで酸素を多く消費します。その結果、カロリーも自然と多く燃える状態が続くのです。
短時間、高強度の運動であっても、このEPOCの効果は顕著です。たとえば、HIIT(高強度インターバルトレーニング)は、同じ運動量の有酸素運動よりもEPOCが高く、脂肪燃焼率も上がることがわかっています。ある研究では、HIIT後のEPOCは約66 kcal、同量の有酸素運動では約54 kcalと、明確な差が示されました。
さらに、短いインターバル運動ほどそのEPOCの持続時間が長くなる傾向も確認されています。
実は、短時間でも全力で行う運動は、長く続ける運動よりも “あとから燃える効果(EPOC)” が長く続く場合があるのです。
こうした科学的背景から、朝に5分だけ階段の登り降りを実施すると、その強度は控えめでも、“運動後の継続エネルギー消費効果” を期待することができます。つまり「短さ=効果の弱さ」ではなく、「短さ×強度×習慣」で代謝を効率的に動かせるのです。
もちろん、EPOCだけで体重が劇的に落ちるわけではありませんが、「運動そのもの+その後の燃焼効果」が重なることで、忙しい朝でも代謝を上げるトータルな戦略が成立します。さらに、朝に動くことで一日の代謝リズムが整うことも加味すると、短時間の階段運動は理にかなった選択肢と言えるでしょう。

出典:Excess post-exercise oxygen consumption
EPOC Comparison Between Resistance Training and High-Intensity Interval Training in Aerobically Fit Women
Acute interval running induces greater excess post-exercise oxygen consumption and lipid oxidation than isocaloric continuous running in men with obesity
なぜ “階段の登り降り” がEPOCを引き出すのか?:全身運動の強度と簡便性に注目

EPOCを最大限に活かすには、ある程度の運動強度が必要です。そこで注目されるのが、階段の登り降りというシンプルな動作。実はこの運動、思っている以上にEPOC効果を引き出しやすい全身運動なのです。
階段の登り降りは、脚の筋肉だけでなく、体幹、臀筋、大腿四頭筋、腓腹筋、さらに心肺機能も同時に使う “複合運動” です。特に「登り」の動作は自重トレーニングと同様に筋力負荷がかかり、「降り」では関節のバランスや着地時の制動力が必要なため、筋力と神経系を同時に鍛える効果があります。
しかも、その場で登り降りするだけで心拍数が一気に上がるという特徴があり、短時間でもEPOC発生に必要な「中〜高強度」に達しやすい。たとえば、5分間の階段昇降で消費するエネルギーは、ウォーキングの約2〜3倍に相当するとされます(参考:METs基準で階段昇降は約8〜9 METs、ウォーキングは3〜4 METs)。
また、階段は特別な器具も不要で、移動ゼロ・準備時間ゼロで始められるため、「朝5分」という限られた時間でも、高密度なトレーニングが成立します。この “手軽に高強度” という特性こそ、EPOCを最大限に活かせる理由です。
さらに階段の登り降りの特長は、有酸素と無酸素運動の両方の性質を持つことです。「登り」は心肺に負荷をかける有酸素的要素、「降り」は筋繊維(特に遅筋)にテンションを与える無酸素的要素が含まれています。このミックス運動が、運動後も酸素消費を続ける体内環境 = EPOC状態を作りやすいのです。
朝の習慣として階段の登り降りを5分だけ実践する ― このシンプルな行動が、時間栄養学+EPOCという観点から見ると非常に理にかなった「時短×代謝改善」戦略であることが見えてきます。

朝5分階段メニュー:時間帯×強度の設計で代謝を最大化する実践法

朝の限られた時間の中で、最大限に代謝効果を得るためには、「時間帯」と「階段の登り降りの強度」を戦略的に組み合わせることが大切です。
まず時間帯の設定について。時間栄養学の観点から、起床後ほんの少し時間を置いた “朝の空腹状態” は、インスリン感受性が高く、脂質代謝が活性化しやすいタイミングです。そのうえ、朝起きた直後は交感神経が穏やかに立ち上がるタイミングでもあり、代謝・ホルモン・自律神経の3方向で代謝スイッチが入りやすい“ゴールデンタイム” です。
次に強度設定ですが、階段の登り降りはMET(身体活動の強度指標)で言えばウォーキングの約2~3倍の運動量が得られ、特に速いペースでは9 MET近くに達します(ウォーキング:3~4 MET、階段昇降:8~9 MET)。この強度は短時間でもEPOC効果をしっかり引き出す条件を満たします。
出典:Compendium of Physical Activities
それでは、その朝5分をどう設計するか、以下のプランをご提案します。
⏱朝の5分階段昇降メニュー例
時間帯 | 内容 |
---|---|
0:00–1:00分 | 起床後、軽くストレッチや水分補給して身体を目覚めさせる。 |
1:00–3:30分 | 階段の登り降りを1.5分 × 2セット(登る→降りる=1往復を1セットとして速度は「ややキツめ」で心拍を上げる)。 |
3:30–5:00分 | クールダウン(軽い足踏み、深呼吸・水分補給)→服を整えてそのまま日常に移行。 |
このプランでは、短時間×高強度により、運動後最大3時間にもわたってEPOC効果が持続する可能性が期待できます(実験では運動直後代謝が増え、3時間後13%、16時間後4%のEPOCが確認されたケースも)。
さらに、階段の登り降り習慣には、心肺機能・血圧・インスリン感受性・体組成の改善といった幅広い心代謝系への効果を複数の研究が示しています。たとえば定期的な階段昇降はVO₂max(最大酸素摂取量)が改善し、LDLコレステロールの低下も観察されました。また、階段を1日数回利用する人は、メタボリックシンドロームのリスクが低く、長期的には心血管疾患・死亡リスクの低下にもつながるという報告もあります。
つまり、この短時間・場所を選ばずできる習慣には、朝の代謝スイッチを入れるだけでなく、長期的な健康リスクまでケアする効果性があります。
出典:Excess post-exercise oxygen consumption
Training effects of short bouts of stair climbing on cardiorespiratory fitness, blood lipids, and homocysteine in sedentary young women
Daily stair climbing is associated with decreased risk for the metabolic syndrome
Climbing stairs is associated with reduced risk of cardiovascular disease
医療職の私が実感した “朝階段5分” の変化と気づき

私自身が階段の登り降りを習慣にし始めたのは、もう10年ほど前のことです。当時は昼休みの時間を使って、30分ほどの階段登り降りを始めました。最初は気分転換のつもりでしたが、続けるうちに徐々に運動量を増やし、40〜50分が当たり前になるまでに伸びていきました。
そして約1年前、思い切ってその習慣を朝に移しました。仕事や生活リズムを考えると、朝のほうが効率的に1日の時間を追加、体を整えられると感じたからです。朝活としての階段登り降りは、当初から40〜50分ほど取り組んでおり、その後はさらに時間を延ばして50〜60分になることもありました。ただ最近は膝への負担を考え、あえて50分前後で抑えるようにしています。
こうした長期的な取り組みの中で、体の変化は明確に実感できています。
まず、朝の体温の立ち上がりがスムーズになりました。冬の寒い朝でも、布団から出てすぐの冷えが和らぎ、指先の冷たさを気にせず活動開始できるようになりました。
次に、血糖の安定とエネルギー感の違いです。以前は朝食後に眠気を感じることがありましたが、朝の運動を取り入れてからは血糖の急上昇や下降が和らぎ、集中力が長く持続するようになっています。
さらに、健康診断の数値にも良い変化が見られました。これまでの検査では軽度のインスリン抵抗性(HbA1c 5.8%)が指摘されたこともありましたが、今年は5.5%前後に改善。生活全体の影響もありますが、階段の登り降り朝活という動習慣が一因であると感じています。
もちろん、私の場合は50分と比較的長い時間をかけていますが、読者の皆さんには「まずは5分」からで十分だと考えています。短時間でも「EPOC+時間栄養学」の考え方に沿って取り組めば、体の変化を実感することができます。私自身も「できた!」という達成感の積み重ねから自然に時間が延びていき、今の形に落ち着きました。
習慣化のカギは “朝の自動化”:忙しい人でも続けられる階段ルーティン術

「運動を習慣にするのは難しい」と多くの人が感じる中、私が続けられた理由はただひとつ、「選択肢をなくしたから」でした。つまり、“朝起きたら階段” というルーティンを思考の外に置いたのです。
脳科学では、行動の約45%は “習慣” によって自動化されているとされます。意志の力よりも、「環境」「時間」「きっかけ」が鍵です。私の場合、朝活を習慣化できた理由のひとつは、「流れの中に運動を組み込んだこと」です。
実際のリズムはこうです。
05:40に起床 → 06:00に朝食 → 移動と着替え → 06:45前後に階段の登り降りを開始。
一連の動作をルーティンにしてしまうことで、迷う余地がなくなり、自然と「朝イチ運動モード」に切り替わります。特に06:00の朝食を固定化していることで、「その後に階段運動」という流れが自動的に決まり、習慣化が格段に楽になりました。
このように、起床から運動までの一連の行動を “ひとつのパッケージ” としてしまえば、意思の力に頼らず自然に続けられるのです。
さらに、「やったことを見える化」することで脳の報酬系が活性化されます。私はカレンダーに○をつけたり、スマートウォッチで心拍数の変化を見たりと、小さな “やった感” を積み重ねてきました。これが自己効力感を高め、「またやろう」という動機のエンジンになります。
もちろん、すべてが順調だったわけではありません。仕事が忙しく時間がとれなかった日もありました。でもそんなときは、「1階だけでも昇る」ことを自分に許しました。すると不思議なもので、“少しでもできた” という気持ちが次の日へのハードルを下げてくれるのです。
習慣化のもうひとつのカギは、「身体のリズムとの整合性」です。体内時計(サーカディアンリズム)の観点から言えば、朝の光を浴びながらの運動は、体内のあらゆる臓器の時計をリセットする役割を果たします。つまり、朝階段は “身体のスイッチ” を入れる儀式でもあるのです。
習慣は“頑張って続けるもの”ではなく、“続いてしまう仕組みをつくること”。私自身がそう感じるようになったのは、朝の階段が「生活の一部」に溶け込んだからにほかなりません。
階段昇降が “体内時計” を整える:朝の運動と代謝リズムの科学的つながり

朝に階段の登り降りをすることは、単に代謝を活性化するだけではありません。体内時計(サーカディアンリズム)を整える重要なスイッチとしての役割も果たします。
まず、朝の光と運動のダブル刺激が、体内時計に強力なシグナルを与えることが、複数の研究で確認されています。例えば、朝の光照射はメラトニンの夜間分泌を早めることで、スムーズな入眠と早寝につながることが知られています。
さらに、運動そのものも体内時計を前倒しさせる効果が示されています。決まった時間帯に運動をすることが、睡眠-覚醒のリズムを安定させる働きがあるのです。これは特に、朝に行う階段の登り降りのような運動が、体を「生物学的に起こす」効果として作用することを意味します。
また、階段の登り降りそのものが持つ代謝・心血管・筋肉への効果も、習慣化することで体内リズムの整備を支える基盤となります。例えば、8週間の階段昇降習慣は、VO₂max(最大酸素摂取量)の向上や血糖の安定などに加え、メタボリック症候群リスクの低減にも寄与することが報告されています。これによって、体全体が、自然に健康的なリズムへと整っていくのです。
このように、朝の階段登り降りは「運動」と「光」のシナジーで、生体リズムに働きかけ、代謝が整った “メリハリのある一日” を後押ししてくれるのです。
出典:Health effects of sunlight exposure
Circadian rhythm phase shifts caused by timed exercise vary with chronotype
Effects of exercise on circadian rhythms in humans
Stair-climbing interventions on cardio-metabolic outcomes in adults: A scoping review
まとめ:朝5分階段ルーティンの全体戦略と次の一歩

この記事では「朝5分の階段の登り降りが、代謝を変える」というテーマを、時間栄養学・EPOC・体内時計という3つの観点を通して解説してきました。ここまで読んでいただいたあなたには、以下のポイントをぜひ思い出していただきたいと思います。
- 朝の“ゴールデンタイム”を活かす:
- 体のインスリン感受性が高く、代謝の準備が整いやすい朝に運動することで、小さな習慣でも大きな効果に繋がります。
- EPOC効果で「あとから燃える体」に:
- たった5分でも階段という高強度な運動は、エネルギー消費を促進し、運動後にも代謝を持続させる効果があります。
- 階段という身近な “全身運動” の威力:
- 準備不要で開始でき、心肺にも筋力にも効果的にアプローチ。忙しい朝に最適な効率論的な選択です。
- “まずは5分”というハードルの低さこそが継続を支える:
- 私自身が時間を延長する実体験を通じて、継続の鍵は「最初の一歩がとにかくハードル低いこと」であると実感しました。
- 体内リズムの整備にも好影響:
- 朝の階段活動は、光と運動の両方向から体内時計に働きかけ、一日のリズム全体を整える“朝のリセットスイッチ”として強力です。
次へのアクション
明日の朝、まずは「5分間だけ」階段を使ってみてください。
場所も準備もいらない日常の中で、小さなアクションがあなたの体のリズムを変える第一歩になります。
また、下記の記事も参考にしてみてください:

最も“大きな成果”は、続けた人の体と時間の使い方が変わることです。ぜひ、あなたの「朝5分階段」をスタートに、未来の健康に向かう一歩を踏み出してください。
おことわり
本記事は、著者自身の体験および信頼できる文献・研究に基づき、健康的な生活習慣としての階段の登り降りを提案しています。ただし、すべての方に同様の効果を保証するものではなく、運動の効果や感じ方には個人差があります。
持病や関節への不安がある方は、必ず医師の指導を仰いでから無理のない範囲で実践してください。
本記事で紹介する内容は、医療的アドバイスの代替を目的とするものではありません。
参考文献・論文の内容は信頼性の高いものを選定しておりますが、最新の医学情報やガイドラインの変更によって解釈が変わる可能性もあります。
安全・継続・無理のない範囲で、あなたにとって最適な健康習慣を見つけていきましょう。
本記事で使用した画像はNapkin AIを利用しています。
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